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大阪高等裁判所 昭和28年(ラ)102号 決定 1954年1月21日

抗告人 福永清勝

訴訟代理人 立入庄司

主文

本件抗告はこれを却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の要旨は末尾記載のとおりである。

併しながら民事訴訟法第五百四十九条第五百四十七条にもとずく強制執行停止決定は近い将来に為される異議の判決に於て其の当否が判断されるのであつて、一時的の裁判にすぎないから、これに対し即時抗告を許すべきか否かについて先ず考慮を要する。而して仮にこれを許すべきものとの見解をとつた場合には更に此の即時抗告に執行停止の効力を認めるか否かについても理論上争のあるところであつて、此の点につき執行停止の効力を認める見解の場合は勿論これを認めない場合に於ても、右の如き一時的裁判に対し更に即時抗告を許し別個独立の手続として当否を争うことを許すものと解することは当事者をして無用に争を重ねさせる弊害を生ぜしめる結果を来すのみであつて、他に何等此の手続を必要とする理由を認めることは出来ない。従つて同法第五百条第三項を類推し前記強制執行停止決定に対しては同法第五百五十八条の即時抗告は許されないものと解するのが相当である。

仍て本件抗告は不適法として却下すべきものとし民事訴訟法第四百十四条第三百八十三条第九十五条第八十九条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判長判事 朝山二郎 判事 西村初三 判事 沢井種雄)

抗告申立の趣旨

大阪地方裁判所昭和二十八年(ヲ)第四六一号強制執行停止命令事件に付同年十月三十一日同庁の為した強制執行停止決定は之を取消す。との決定を求める。

申立の原因

(1) 抗告人は訴外石松喜代太及石松幾好に対して家屋明渡の予告をしたことはあるが同人等に対して未だ強制執行をしたことはないのである。民事訴訟法第五百四十九条には「其強制執行に対する異議を主張し」と規定し、強制執行の開始を前提とし既に発生した差押の効力の排除を求めるのであるが、右の如く抗告人は右訴外人等に対して未だ強制執行をしていないので原審の為した強制執行停止決定は不当である(甲第三号証の一、二)。

(2)民事訴訟法第五百四十九条の「譲渡若くは引渡を妨ぐる権利を主張するとき」と言うのは地上権、永小作権、登記ある賃借権等を指称するものであつて本件の如く「一部賃借権あり」と自称する程度のものは之に該当しないから原決定は不法である。

(3) 被抗告人の主張は全部否認する。即ち抗告人が訴外石松喜代太及同石松幾好との間に調停成立当時被抗告人は本件建物に居住し居らず現在も居住して居るや否や不明であるから原決定は不当である。

(4) 仮に被抗告人が現住するとしても、(イ)同人は訴外石松等の親族で本年二十歳位の青年であり昭和二十七年八月十日大分県から転入して来た者で単身であることは被抗告人が原審で甲第七号証として提出した住民票によつて明白である。そして石松等と抗告人間の調停成立は昭和二十六年十二月十九日である(甲二号証)から抗告人は承継執行文によつて被抗告人に立退を求め得るのである。(ロ)又仮に二十歳位の単身の青年が居住するとしてもそれは、間借りであつて賃貸借の存在と見るべきでないことは実験則上明であり、被抗告人主張の賃貸借は仮装のものと看るべきである。之を認容した原決定は事実の誤認であり且つ実験則に反する不当のものである。

(5) 被抗告人主張の建物は訴外石松幾好所有の建物で石松喜代太の所有でないから同人との間の賃貸借契約は無効であるのに之を認容した原決定は不法である。

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